大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)1850号 判決

被告人 江尻光孝

〔抄 録〕

所論は、被告人は金品物色の行為に着手していないから窃盗未遂罪は成立しない旨主張するので、按ずるに、原判決挙示の証拠殊に被告人の検察官に対する昭和三十八年五月二十七日付、同年六月四日付(二通)、同月八日付各供述調書及び司法警察員に対する同年五月二十三日付供述調書、白木利雄の司法警察員に対する供述調書、乙黒岩保作成の被害届及び司法警察員作成の実況見分調書によれば、被告人は薬局及び化学薬品の販売業を営んでいたものであるが、家畜消毒殺虫剤を農林省の斡旋により地方の農業協同組合に販売したいと考え、同省畜産局畜政課に右販売に関し申請及納入方法等について尋ねるため、昭和三十八年五月十八日午後五時五十分頃、原判示畜政課に至り同課事務室向つて左側の入口より同室内に入つたが、当日は土曜日で同課職員は既に退庁し同室内に誰もいなかつたので、同室内のロツカーより金品を窃取しようとして、奥の方(南の方)に進み南側にある同課用度係長乙黒岩保の事務机の抽斗よりロツカーの合鍵を取り出したところを同課職員白木利雄に発見逮捕されたことが認められる。ところで、前記実況見分調書によれば、同課事務室は北側が廊下に接して四箇所の出入口を有し南側は窓となつており東西はそれぞれ隣室に接した間口十六メートル奥行九メートルの部屋であること、室内には向い合せにした机が南北に長く五列に並べられ、東側の壁にそいロツカー数台が南北に一列に並び置かれてあり、右白木の事務机は右ロツカーの直ぐ西側にこれと平行して南北に長く並べられた事務机の南端にあつて右ロツカーとの間の距離はいくばくもないことが認められるところであるから、被告人がロツカーより金品を窃盗する目的をもつて、ロツカーのかかる近くにある事務机よりその合鍵を取り出した以上、この行為をもつて金品窃取の目的をもつて同室内を物色したもの即ち窃盗の行為に着手したものというを妨げないから、被告人の右行為が窃盗未遂に該ることは明らかである。論旨は理由がない。

(藤嶋 山本 小俣)

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